クロアワビ

「アワビの王様」として君臨し、夏の磯の味覚における最高級食材、クロアワビ。日本近海で獲れるアワビ類(クロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビ、エゾアワビ)の中で最も味が良く、市場価格も最も高いことで知られています。その身は「黒」の名が示す通り黒っぽく、生で食べた時の「コリコリ」とした強烈な歯ごたえと、噛むほどに広がる深い磯の香りは、他のアワビの追随を許しません。古くから「オンガイ(雄貝)」とも呼ばれてきましたが、これは見た目の力強さに由来する呼び名であり、実際にはオスとメスが存在します。贈答品や神事のお供え物としても別格の扱いを受けるこの黒い宝石の特徴や、メガイアワビとの見分け方、そしてその食感を最大限に楽しむ料理について解説します。
| 項目 | 内容 |
| 分類 | 腹足綱ミミガイ科アワビ属 |
| 標準和名 | クロアワビ |
| 漢字 | 黒鮑 |
| 別名 | オンガイ(雄貝)、クロ |
| 学名 | Haliotis discus discus |
| 英名 | Disk abalone |
| 季節 | 夏(5月〜9月頃) |
| 生息域 | 本州(茨城県、富山県以南)、四国、九州の岩礁帯 |
クロアワビとは
クロアワビは、日本の暖流が流れる岩礁域に生息するアワビの一種です。
水深20メートル以浅の、潮通しが良く、アラメやカジメなどの海藻が繁茂する場所を好みます。
夜行性で、夜になると岩の隙間から這い出して海藻をたっぷりと食べます。
北海道や東北で有名な「エゾアワビ」は、実はこのクロアワビの亜種(北方型)であり、寒冷な環境に適応して小型化したものです。
夏に産卵期を迎えるため、その前の初夏から夏にかけてが最も身が太り、味が良くなる旬の時期です。
漁獲量は年々減少しており、完全養殖や稚貝の放流が各地で行われていますが、依然として高嶺の花であることに変わりはありません。
クロアワビの特徴と見分け方
【見た目】
殻の長さは15センチメートルから20センチメートルほどになります。
殻の色は黒褐色や暗い緑褐色で、メガイアワビに比べて殻に深み(高さ)があります。 最大の特徴は、足(身の周りのヒラヒラした部分)の色が濃い黒色をしていることです。
【メガイアワビとの違い】
市場でよく比較されるのが**メガイアワビ(赤アワビ)**です。
- クロアワビ:殻が高く、呼水孔(穴)が突き出ています。身(足)の色が黒いです。食感は硬く、コリコリしています。
- メガイアワビ:殻が平べったく、呼水孔が低いです。身(足)の色がベージュや黄土色です。食感は柔らかく、ねっとりしています。
クロアワビの漁
主に「海女(あま)漁」や「見突き漁」による素潜りで獲られます。
岩の隙間や裏側に強力な吸盤で張り付いているため、海女さんは「磯金(いそがね)」と呼ばれる金属製のヘラを素早く差し込み、一瞬で剥がし取ります。
一度危険を察知して岩に張り付いたアワビを剥がすのは、成人男性の力でも困難と言われるほど強力です。
資源保護のため、殻長10センチメートル以下は採捕禁止などの厳しいルールが設けられています。
食材としての評価
「刺身にするならクロアワビ」と言われるほど、生食での評価はずば抜けています。 その魅力は、なんといっても硬い歯ごたえです。
単に硬いだけでなく、サクッと歯切れが良く、咀嚼するたびに昆布の旨味と磯の香りが口いっぱいに広がります。
加熱すると柔らかくなりますが、メガイアワビほど柔らかくなりすぎず、適度な弾力が残ります。
肝(としろ)も濃厚で美味であり、珍味として喜ばれます。
クロアワビの料理
その歯ごたえを楽しむ生食と、贅沢なステーキが二大看板です。
刺身・水貝(みずがい)
クロアワビの真骨頂です。
硬い身を薄く波打つように切ることで、独特の食感を楽しみます。
また、夏の風物詩「水貝」は、海水程度の塩水に氷を浮かべ、角切りにしたアワビとキュウリなどを浮かべた料理です。
冷やすことで身がさらに引き締まり、カリカリとした極上の食感を味わえます。
アワビのステーキ
バターと醤油で香ばしく焼き上げます。
火を通すことで身は柔らかくなりますが、クロアワビ特有の弾力は失われません。
肝を裏ごしして醤油やバターと合わせた「肝ソース」をかけて食べると、フレンチのメインディッシュになります。
酒蒸し
酒と昆布と一緒に長時間蒸し上げます。
ふっくらと柔らかくなり、アワビの持つ旨味エキスが凝縮されます。
冷めても美味しいので、おせち料理などにも使われます。
まとめ
クロアワビは、黒い足と高い殻を持つ、磯の王様です。メガイアワビが「赤」で「柔」なら、クロアワビは「黒」で「剛」。その強烈な歯ごたえと香りは、夏バテを吹き飛ばすほどの力強さを持っています。特別な日や、自分へのご褒美として、もし奮発してアワビを選ぶなら、刺身好きには間違いなくこのクロアワビがおすすめです。コリコリと音を立てて味わうその瞬間、日本の海の豊かさを実感できるでしょう。
クロアワビに関するよくある質問
オスとメスの見分け方は?
アワビの性別は、殻をめくった時に見える生殖腺(肝の隣にある部分)の色で見分けます。
- オス:生殖腺が白っぽいクリーム色。
- メス:生殖腺が濃い緑色。
味に大きな違いはありませんが、肝ソースを作る際、オスの白い生殖腺はまろやかで、メスの緑色は少しコクや苦味が強いと言われることがあります。
※「クロアワビ=オス」「メガイアワビ=メス」というのは昔の俗称であり、生物学的にはどちらにもオス・メスがいます。
殻にある穴の数は決まっていますか?
アワビの背中にある穴(呼水孔)は、呼吸や排泄のための穴です。
クロアワビの場合、通常3個から5個が開いており、古い穴は成長とともに塞がっていきます。
この穴が管状に高く突き出ているのがクロアワビの特徴です(メガイアワビは低い)。
捌くのは難しいですか?
専用の道具がなくても、カレースプーンやステーキナイフがあれば家庭でも捌けます。
殻の薄い方からスプーンを差し込み、貝柱(殻の真ん中あたり)を断ち切るように力を入れると外れます。
外した後は、口(赤い部分)を取り除き、塩を振ってタワシでこすり洗いして黒い汚れやヌメリを落とします。
この「タワシで磨く」作業で、磯臭さが消えて綺麗な身になります。































