ミズウオ

鋭い牙が並んだ巨大な口と背中にある大きなヒレはまるで神話に出てくるドラゴンのような姿をしています。深海魚の中でも特にインパクトのある見た目を持つこの魚の名前はミズウオです。その名の通り体の水分量が非常に多く筋肉のほとんどが水でできているかのようなブヨブヨとした感触が特徴です。マグロ延縄漁などで混獲されることが多く漁師さんにとっては売り物にならない厄介者ですが深海の掃除屋としての役割は非常に重要です。胃袋の中からは他の魚だけでなくビニール袋などの海洋ごみが見つかることもあり海の環境問題を教えてくれる魚としても注目されています。一般の市場にはまず出回りませんが静岡県などの一部の地域では独特の方法で調理して食べる文化も残っています。
| 項目 | 内容 |
| 分類 | ヒメ目ミズウオ科ミズウオ属 |
| 標準和名 | ミズウオ |
| 漢字 | 水魚 |
| 別名 | ハンザク、オイラン |
| 学名 | Alepisaurus ferox |
| 英名 | Longnose lancetfish |
| 季節 | 通年(冬に漂着が多い) |
| 生息域 | 全世界の温帯から熱帯の深海 |
ミズウオとは
ミズウオは世界中の温帯から熱帯海域の深海に生息する大型の深海魚です。水深900メートルから1500メートル付近を主な生息域としていますが夜間には餌を追って浅場まで浮上することもあります。名前の由来はその特異な肉質にあり体内の水分含有率が90パーセント以上とも言われ陸に揚げると自重で形が崩れてしまうほど柔らかいことから水魚と名付けられました。見た目の恐ろしさに反して骨格は非常に脆く少しの衝撃で折れてしまいます。別名のハンザクは鋭い歯で獲物を引き裂く様子から裂くが転じたものや花魁の装いのように派手な背ビレを持つことからオイランと呼ばれることもあります。台風の後や冬の荒れた日には弱った個体が海岸に打ち上げられることがありニュースやSNSで話題になることも多い魚です。
ミズウオの特徴
体長は最大で2メートルを超え体重は数キログラムになりますがその重さの大部分は水分です。体は細長く側扁しており鱗はありません。銀色に輝く体表は粘液で覆われておらず少しざらついた感触があります。最大の特徴は背中全体に広がるバショウカジキのような巨大な背ビレです。このヒレは普段は折りたたまれていますが広げると非常に美しい青黒色をしています。口は目の後ろまで大きく裂けており上下の顎にはナイフのような鋭い牙がずらりと並んでいます。さらに口の奥には獲物を逃がさないための折りたたみ式の歯まで備えています。尾ビレの上部には糸状に伸びたフィラメントがありこれもミズウオのシルエットを特徴づけています。
ミズウオの生態とライフサイクル
食性は極めて貪欲な肉食性であり口に入るものは何でも丸呑みにします。イカやタコ甲殻類はもちろん自分と同じくらいの大きさの魚や共食いまですることが知られています。消化能力はそれほど高くないため胃の内容物を調べることでその海域の深海にどのような生物が生息しているかを知る手がかりとなります。中には人間が捨てたプラスチックごみや空き缶などを飲み込んでいる個体も多く海洋汚染の指標生物としても研究されています。繁殖については雌雄同体であり一つの個体が卵巣と精巣の両方を持っていますが自家受精をするのかペアで繁殖するのかなど詳しいことはまだ解明されていません。成長は非常に早く1年で1メートル以上に達すると考えられています。
ミズウオの分布と生息環境
北海道以南の日本各地を含む世界中の海に広く分布しています。普段は光の届かない深海の中層を漂うように泳いでいます。筋肉が少なく積極的に泳ぎ回るタイプではないため海流に乗って移動していると考えられています。冷たい海水を好むため表層水温が下がる冬場になると日本海側などの沿岸近くまで寄ってくることがありこれが冬の海岸への漂着が多い理由の一つとされています。駿河湾や相模湾などの急深な地形を持つ海域では深海釣りの外道として掛かることもあります。
ミズウオの料理と食べ方
その名の通り水分だらけの身は加熱すると溶けてなくなってしまいます。そのため通常の煮付けや焼き魚には全く向きませんが調理法を工夫すれば食べることができます。静岡県の一部地域では漁師料理として食べられています。
すき身(刺身)
新鮮なうちに水分を抜くことが重要です。身をスプーンなどで削ぎ取りキッチンペーパーなどで入念に水気を取ります。醤油やポン酢で食べるとトロのような食感と甘みがあり意外な美味しさです。ただし鮮度が落ちるのが非常に早いため釣りたて限定の味です。
ミズウオの干物
水分を飛ばすために天日干しにします。干すことで身が凝縮されカラスミのようなねっとりとした食感と濃厚な旨味が生まれます。軽く炙って酒の肴にすると絶品です。
唐揚げ
水分を抜いた身に衣をつけて高温で揚げます。外はサクサク中はゼリーのような独特の食感を楽しめます。骨が柔らかいため揚げれば気になりません。
煮こごり
溶けやすい性質を逆手に取り煮溶かして煮こごりにします。冷やすとゼラチン質が固まりプルプルとした食感の料理になります。
まとめ
ミズウオは深海の不思議と環境問題を私たちに伝えてくれるメッセンジャーのような存在です。そのグロテスクながらも美しい姿は多くの人々を惹きつけます。海岸で打ち上げられた個体を見つけた際はその大きな口の中や胃の内容物に思いを馳せてみてください。そこには深海の生態系と私たちが海に与えている影響の縮図が隠されているかもしれません。
ミズウオに関するよくある質問
毒はありますか
ミズウオ自体に毒はありません。牙は鋭いですが毒腺はなく噛まれても毒が回ることはありません。ただし深海生物全般に言えることですが何を食べているか分からないため生食する際は自己責任となります。また鮮度低下に伴う食中毒には十分な注意が必要です。
飼育はできますか
現在の技術では飼育は不可能に近いです。深海という特殊な高圧環境に適応しているため水槽内での圧力調整や餌付けが非常に困難です。また体が非常に脆く輸送中に壁にぶつかっただけで死んでしまうこともあります。水族館でも生きた姿での展示は極めて稀で数日生きればニュースになるレベルです。
胃の中から何が出てきますか
深海の掃除屋と呼ばれるだけあり様々なものが出てきます。ハダカイワシなどの深海魚や深海エビなどの甲殻類が多いですが珍しい深海生物が見つかることもあり研究者にとっては宝箱のような存在です。残念ながら近年ではレジ袋やペットボトルのキャップなどのプラスチックごみが出てくる頻度が高くなっています。































