ケムシカジカ

海の中から引き上げられた瞬間、「岩か? 海藻の塊か?」と見間違えてしまうほど、奇妙でグロテスクな姿をした魚がケムシカジカです。その名の通り、顔や体中から「毛虫」のようなボロボロとした皮の突起が生えており、その風貌は「世界一ブサイクな魚」候補に挙がるほど。しかし、北海道や東北では、この魚は冬の味覚の王様の一つとして君臨しています。「アンコウにも匹敵する」と言われるその身は、コラーゲンたっぷりのゼラチン質と濃厚な肝(キモ)を持っており、鍋にすると絶品です。見た目で判断してはいけない、北の海の「醜い美食家」について解説します。
| 項目 | 内容 |
| 分類 | カサゴ目ケムシカジカ科ケムシカジカ属 |
| 標準和名 | ケムシカジカ |
| 漢字 | 毛虫鰍 |
| 別名 | トウベツカジカ(北海道での市場名)、オコゼ(東北の一部) |
| 学名 | Hemitripterus villosus |
| 英名 | Sea raven |
| 季節 | 冬(11月〜2月) |
| 生息域 | 北海道全域、東北地方以北の日本海・太平洋 |
ケムシカジカとは
ケムシカジカは、北海道やオホーツク海などの冷たい海に生息する大型のカジカの仲間です。
体長は40センチメートルから50センチメートルほどになります。
最大の特徴は、その凄まじい見た目です。
皮膚は厚く、ウロコはありませんが、小さな棘(トゲ)状の突起が無数にあり、サメ肌のようにザラザラしています。
さらに、頭部や下顎、背ビレなど至る所から、ボロボロとした**「皮弁(ひべん)」と呼ばれる皮膚の飾りがぶら下がっており、これが「毛虫」のように見えることから名付けられました。 体色は赤、茶色、黄色と個体差が激しく、周りの岩や海藻に完璧に擬態して獲物を待ち伏せます。 北海道の市場では、標準和名よりも「トウベツカジカ(当別鰍)」**という名前で並ぶことが一般的です。
究極のブサイク、味はアンコウ級
見た目は「魔物」のようですが、皮を剥いて中身を見ると評価は一変します。
- 身:白く透き通った弾力のある白身で、フグのような食感があります。
- 皮:分厚い皮は、加熱するとプルプルのゼラチン質になり、アンコウに似ています。
- 肝(キモ):大きなオレンジ色の肝臓が入っており、これが「海のフォアグラ」と呼ばれるほど濃厚で美味です。
北海道には「カジカ汁(鍋壊し)」という有名な郷土料理がありますが、これに使われるカジカには主に2種類(ギスカジカとトウベツカジカ)があり、本種(トウベツカジカ)も非常に美味しい出汁が出ることで知られています。
ケムシカジカのさばき方(難易度高)
全身がトゲとヌメリで覆われているため、さばくには少しコツがいります。
- ヌメリ取り:タワシでゴシゴシと擦り、表面の汚れとヌメリを落とします。
- トゲに注意:背ビレなどのトゲが鋭いので、キッチンバサミでヒレをすべて切り落としておくと安全です。
- 皮を剥く:カワハギやアンコウのように、口元から皮を引っ張って、ベリベリと全身の皮を剥ぎ取ります(※皮も美味しいので、捨てずに湯通しして刻んで食べます)。
- 肝を取り出す:お腹を割いて、一番美味しい「肝」を傷つけないように慎重に取り出します。
ケムシカジカの料理
冬の寒い時期、体を芯から温めてくれる鍋料理が最強です。
カジカ汁(鍋)
ケムシカジカの最も代表的で美味しい食べ方です。
ぶつ切りにした身、肝、皮、そして大根や人参などの野菜を味噌仕立ての汁で煮込みます。
ポイントは**「肝を味噌に溶かし込む」、あるいは「肝を具材としてゴロッと入れる」**ことです。
肝から溶け出した濃厚な脂とコクが味噌と混ざり合い、とろみのある極上のスープになります。
カジカの子の醤油漬け
メスがお腹に持っている卵(カジカの子)は、イクラよりも小粒ですが、非常に弾力があり美味しいです。
ほぐして醤油漬けにすると、プチプチとした食感が楽しいご飯のお供になります。
唐揚げ
身は加熱するとプリッとして鶏肉のような食感になります。
皮を引いた身を唐揚げにすると、フグの唐揚げにも似た淡白ながらも旨味の強い味が楽しめます。
刺身(※鮮度重視)
活け締めされた新鮮なものは、薄造りの刺身にできます。
コリコリとした強い歯ごたえと甘みがあります。
茹でた肝を裏ごしして醤油に溶いた「とも和え(肝醤油)」で食べると、お酒が止まらなくなります。
まとめ
ケムシカジカは、その名前と見た目で損をしている魚の代表格ですが、ひとたび鍋に入れれば主役級の輝きを放つ実力派です。北海道のスーパーでは、冬になると皮を剥かれた状態(ピンク色の身だけの状態)で「カジカ」として安く売られていることもあります。もし丸ごとの姿を見かけたら、そのユニークな「毛虫顔」を観察した後、ぜひ濃厚なカジカ汁で北の海の豊かさを味わってみてください。
ケムシカジカに関するよくある質問
「ナベコワシ」とはこの魚のことですか?
一般的に「鍋壊し(鍋をつつきすぎて鍋底を壊してしまうほど美味い)」と呼ばれるカジカは、**「ギスカジカ」**という別の種類を指すことが多いですが、地域によってはこのケムシカジカ(トウベツカジカ)も含めて「ナベコワシ」と呼ぶことがあります。
どちらも非常に美味しく、甲乙つけがたい味わいです。
トゲに毒はありますか?
毒はありません。
しかし、背ビレやエラ蓋にある棘(トゲ)は非常に鋭く硬いため、刺さると深く傷つきます。
調理の際は軍手をするか、最初にハサミで棘を切り落としてから作業することをおすすめします。
カジカとオコゼは違うのですか?
はい、違います。
カジカはカサゴ目カジカ科(またはケムシカジカ科など)、オコゼはカサゴ目オニオコゼ科などで、分類が異なります。
ただ、見た目が似ていてゴツゴツしているため、地方によってはカジカのことを「オコゼ」と呼ぶことがあり、混同されやすいです。
(本種のオニオコゼ科のような猛毒はありません)。































