ブダイ

関東では冬の鍋食材として、関西では「イガミ」の名で煮付けや祭りごちそうとして親しまれているブダイ。その名の由来は泳ぐ姿が舞っているように見える「舞鯛」から来ているとも、武士のような鎧(鱗)を纏っている「武鯛」から来ているとも言われます。オスとメスで体色が全く異なることが特徴で、かつては別の種類の魚だと思われていました。南国の海にいるカラフルなブダイの仲間とは異なり、日本の磯に馴染む落ち着いた色合いをしていますが、その生態や性転換する不思議な能力は共通しています。海藻を主食とするため磯の香りが強く、冬になると脂が乗って格別の味わいとなるこの魚の生態や、中毒事故を防ぐためのアオブダイとの違いについて解説します。
| 項目 | 内容 |
| 分類 | スズキ目ベラ科ブダイ属 |
| 標準和名 | ブダイ |
| 漢字 | 舞鯛、武鯛 |
| 別名 | イガミ(関西)、アカブダイ(メス)、モハミ |
| 学名 | Calotomus japonicus |
| 英名 | Japanese parrotfish |
| 季節 | 冬(11月から2月頃) |
| 生息域 | 本州中部以南の岩礁帯、海藻が茂る場所 |
ブダイとは
ブダイは本州中部から南の海に生息するベラ科(またはブダイ科)の魚です。
沖縄などのサンゴ礁で見られる派手なブダイ類(ナンヨウブダイなど)とは異なり、本州の沿岸で最も一般的に見られるのがこの標準和名「ブダイ」です。
古くから日本の食文化に根付いており、特に関西地方、和歌山県や三重県などでは「イガミ」と呼ばれ、秋祭りや正月に欠かせない祝魚として珍重されています。
ベラの仲間であるため、夜になると岩の隙間や海藻の陰で眠る習性があります。南洋のブダイのように口から粘液を出して寝袋を作ることはあまりせず、海藻に身を潜めることが多いのが特徴です。
ブダイの特徴
体長は30センチメートルから40センチメートルほどになります。
体は大きなウロコで覆われており、その姿は鎧を着ているように見えます。
最大の特徴はオスとメスで体色が劇的に異なることです。メスは赤褐色や茶褐色をしており「アカブダイ」や「赤イガミ」と呼ばれます。一方、オスは青緑色や暗い青色をしており「アオブダイ」と呼ばれることがありますが、標準和名アオブダイ(有毒)とは別の魚であるため注意が必要です。
口には丈夫な歯が癒合して並んでおり、オウムのクチバシのような形状をしています。これで硬い海藻を食いちぎったり、甲殻類を噛み砕いたりします。
ブダイの生態とライフサイクル
食性は雑食性ですが、成長すると植物食性が強くなり、ホンダワラやヒジキ、ハバノリなどの海藻を好んで食べるようになります。そのため、ブダイの身には独特の磯の香りがあります。
ブダイは「雌性先熟(しせいせんじゅく)」という性転換を行う魚です。生まれた時は全てメスとして生活し、卵を産みます。そして成長して群れの中で大きくなるとオスに性転換し、体色も赤から青へと変化します。つまり、大型の個体はほとんどがオスということになります。
産卵期は秋(9月から11月頃)で、この時期になると浅場に接岸してきます。
ブダイの分布と生息環境
日本の本州中部以南、朝鮮半島、台湾などに分布しています。
浅い海の岩礁帯や、海藻が繁茂しているガラモ場(ホンダワラ類が茂る場所)を好みます。
特に冬場は海藻を求めて非常に浅い場所まで入ってくることがあり、磯釣りの好ターゲットとなります。
ブダイの釣り方
ブダイ釣りは冬の風物詩であり、独特の餌を使うことで知られています。
ハンバ釣り(海藻餌)
ブダイが海藻を好む習性を利用し、ホンダワラやハバノリ(ハンバノリ)を餌にして釣ります。
冬の磯で採取した海藻を針に房掛けし、ウキ釣りで磯際を流します。餌取り(他の魚)が少ない冬場に、海藻を食べるブダイだけを狙い撃ちできる伝統的な釣法です。ウキが消し込む豪快なアタリと、特有の重量感ある引きを楽しめます。
カットウ釣り(引っ掛け釣り)
専用の掛け針が付いた仕掛けを使い、餌に寄ってきたブダイを引っ掛けて釣る方法もあります。伊豆地方などで盛んに行われており、餌にはカラス貝や海藻を使います。
ブダイの料理
「夏は腐ってもタイ、冬は腐ってもブダイ(イガミ)」という格言があるほど、冬のブダイは美味とされています。海藻を食べて育つため磯の香りがありますが、冬は臭みが抜けて脂が乗ります。
煮付け
ブダイ料理の王道です。
ウロコは非常に硬いですが、皮には分厚いゼラチン質があり、煮付けるとプルプルとして絶品です。この皮を味わうのがブダイ料理の醍醐味と言えます。身は繊維質で崩れにくく、甘辛い煮汁がよく染み込みます。梅干しや生姜と一緒に煮ると磯臭さが和らぎ、さっぱりといただけます。
刺身(焼き霜造り・湯引き)
新鮮なものは刺身でも食べられます。
皮が美味しいため、皮を引かずにバーナーで炙ったり、熱湯をかけて湯引き(松皮造り)にしたりして食べるのがおすすめです。身は白身で淡白ですが、皮の脂と歯ごたえがアクセントになります。わさび醤油だけでなく、ポン酢や紅葉おろしも合います。
ブダイの唐揚げ・天ぷら
磯の香りが苦手な人には揚げ物が最適です。
皮ごとぶつ切りにして唐揚げにすると、皮はカリカリ、身はフワフワの食感になります。下味にニンニクや生姜を効かせると香りが気にならなくなります。
鍋料理(ちり鍋・味噌鍋)
良い出汁が出るため、冬の鍋料理にも最適です。
特に味噌仕立ての鍋にすると、ブダイの風味と味噌のコクがマッチして体が温まります。
まとめ
ブダイは冬の磯が生んだ恵みであり、そのユーモラスな顔つきと性転換という不思議な生態を持つ魚です。関西では祝いの魚として愛されていますが、その美味しさは全国共通です。特に煮付けにした時のトロトロの皮は、他の魚では味わえない食感です。もし冬の魚屋で赤や青の鎧をまとったブダイを見かけたら、ぜひ煮付けにしてその季節の味を堪能してみてください。
ブダイに関するよくある質問
アオブダイとの違いは(毒について)
非常に重要な点です。標準和名「ブダイ」のオスは青色をしており通称アオブダイと呼ばれることがありますが、無毒で美味しい魚です。しかし、標準和名「アオブダイ」(イラブチャーの仲間)は、内臓(肝臓)にパリトキシンという猛毒を持っていることがあり、死亡事故も起きています。
見分け方として、標準和名「アオブダイ」は頭がコブのように突き出ており、歯が完全に癒合して一枚の板のようになっています。一方、標準和名「ブダイ」は頭が丸くなだらかで、歯にはギザギザとした切れ込みが見えます。安全のため、素人が判断できない青いブダイ類の肝臓や内臓は絶対に食べないようにしてください。
磯臭さを消すには
ブダイは海藻を主食としているため、個体によっては磯の香り(海藻臭さ)が強い場合があります。調理のポイントは、内臓を傷つけずに綺麗に取り除くこと、血合いをしっかり洗うこと、そして調理時に生姜、梅干し、ゴボウなどの香りの強い食材や酒を多めに使うことです。また、冬場の個体は臭みが少なく美味しいですが、夏場の個体は臭みが強い傾向があります。
ウロコが硬くて取れません
ブダイのウロコは非常に大きく、皮膚にしっかりと食い込んでいるため、普通のウロコ取りでは飛び散って大変です。包丁でウロコごと皮をすき引き(柳刃包丁などで削ぎ取る)する方法や、スプーンを使って一枚一枚剥がす方法があります。煮付けにする場合は、ウロコを取らずに煮て、食べる時にウロコだけ剥がすという豪快な食べ方もありますが、基本的には丁寧に取り除くのが一般的です。































