クサウオ

網にかかると、その巨大でブヨブヨとした姿に漁師さえも苦笑いする魚、クサウオ。巨大なオタマジャクシのような、あるいは溶けかけた岩のような、なんとも形容しがたい風貌をしています。名前の由来は「臭い魚」から来ているという不名誉な説もありますが、実はその中身はアンコウにも匹敵する極上の白身魚です。分厚いゼラチン質に覆われた体は、加熱するとトロトロになり、冬の鍋料理や汁物にすると最高の出汁が出ます。スーパーに並ぶことはまずない、この「キモカワイイ」深海の住人の正体や、名前の由来、そして大量のヌメリを落とした先にある美食について解説します。
| 項目 | 内容 |
| 分類 | スズキ目(またはカサゴ目)クサウオ科クサウオ属 |
| 標準和名 | クサウオ |
| 漢字 | 草魚、臭魚 |
| 別名 | 沖アンコウ、ミズドンコ、グンタマ(卵塊の呼び名) |
| 学名 | Liparis tanakae |
| 英名 | Tanaka’s snailfish |
| 季節 | 冬から春 |
| 生息域 | 日本各地(北海道〜長崎)の水深50m〜100m以深 |
クサウオとは
クサウオは、日本各地のやや深い海(水深50メートルから120メートル付近)の砂泥底に生息する魚です。
クサウオ科の魚は世界中の深海や極地に分布していますが、本種はその中でも最大級で、体長は80センチメートル、体重は10キログラムを超えることもあります。
底引き網漁などでタラやカレイに混じって漁獲されますが、体が柔らかすぎて機械で選別できないことや、水分が多くて鮮度落ちが早いことから、市場にはほとんど流通せず、産地で消費されるか廃棄されることが多い「未利用魚」の一つです。
福島県など一部の地域では、冬の味覚として親しまれています。
クサウオの特徴
【ブヨブヨの体と吸盤】
体全体が分厚いゼラチン質の皮と層に覆われており、鱗(ウロコ)はありません。
触るとプニプニとしており、大量の粘液(ヌメリ)を出します。
腹ビレが変化した大きな吸盤がお腹にあり、これで岩などに張り付いて体を固定することができます。
【独特の模様】
体色は灰色や褐色で、独特の網目模様や縞模様が入っています。
この模様と、つぶらな瞳、大きな口が相まって、「おじいちゃん」のような、あるいは「ふてぶてしい」ような独特の顔つきをしています。
【巨大な卵塊】
産卵期の冬になると、海綿(カイメン)の中や岩の隙間に、鶏卵ほどの大きさもある卵を密集させて産み付けます。
この卵の塊はソフトボール大からサッカーボール大になり、紫や黄色などカラフルで、「グンタマ」と呼ばれて食用にされることもあります。
名前の由来
「クサウオ」という名前には、主に2つの説があります。
- 臭い魚説(有力)
陸に揚げて放置すると、体表のヌメリや胃の内容物がすぐに腐敗し、独特の悪臭を放つことから「臭魚(クサウオ)」と呼ばれたという説。 - 草魚説
海底の海藻(草)の中に隠れている、あるいは体色が枯れ草のようであることから「草魚」と名付けられたという説。
漢字では一般的に「草魚」と書かれますが、実際の性質としては「臭魚」の側面が強いとされています。
※淡水魚にも「ソウギョ(草魚)」というコイ科の巨大魚がいますが、全く別の生き物です。
食材としての評価
見た目はグロテスクですが、味は「沖アンコウ」と呼ばれるほど美味です。
身は水分が多い白身で、クセがなく上品な味わいです。
最大の特徴は皮と身の間にあるゼラチン質(コラーゲン)で、これが熱を通すとプルプル、トロトロの食感になり、濃厚なコクを生み出します。
肝も大きく、アンコウの肝(アンキモ)のように濃厚で美味です。
食べるためには、大量のヌメリを取り除く下処理が必須であり、これがこの魚のハードルを上げています。
クサウオの料理
アンコウ同様、鍋や汁物が最高の調理法です。
とも和え(とも汁)
クサウオの定番料理です。
茹でた身と皮を、味噌と肝を溶かした汁で和えます。
肝のコクと身の淡白さ、皮のゼラチン質が一体となり、日本酒が止まらなくなる珍味です。
クサウオ鍋
ぶつ切りにした身、皮、肝を野菜と一緒に煮込みます。
アンコウ鍋に近い味わいで、煮込めば煮込むほど骨から良い出汁が出ます。
プルプルの皮はコラーゲンの塊で、女性にも人気があります。
煮付け
濃い目の甘辛いタレで煮付けます。
水分が多い魚なので、少し冷まして味を染み込ませるとより美味しくなります。
煮こごりも絶品です。
卵の醤油漬け
産卵期のメスが持っている卵(グンタマ)は、イクラのような薄い膜ではなく、寒天質で繋がっています。
ほぐして醤油漬けにすると、カリカリ、コリコリとした独特の歯ごたえを楽しめます。
まとめ
クサウオは、その名の通り扱いを間違えれば「臭い魚」になりかねませんが、丁寧にヌメリを取り除けば「深海のアンコウ」へと変貌する食材です。網にかかると厄介者扱いされることもありますが、そのブヨブヨの体には冬の荒波を生き抜くための旨味とコラーゲンが詰まっています。もし港町でこの巨大なオタマジャクシのような魚を見かけたら、見た目に怯まずに挑戦してみてください。
クサウオに関するよくある質問
淡水のソウギョと同じですか
いいえ、全く違います。
淡水のソウギョ(草魚)は、中国原産のコイ科の魚で、草を食べることからその名がつきました。 今回のクサウオは、海に住むクサウオ科の魚です。
漢字で書くとどちらも「草魚」になることがありますが、読み方は「ソウギョ」と「クサウオ」で異なります。
ヌメリはどうやって取りますか
タワシと塩、そして熱湯を使います。
魚体に塩を振ってタワシでゴシゴシと擦り、一度水で流します。
その後、熱湯を回しかけるとヌメリが白く浮き出てくるので、包丁の背やタワシを使って徹底的にこそげ落とします。
この作業を怠ると生臭さの原因になります。
自分で釣れますか
カレイ釣りやアイナメ釣りの外道として掛かることがありますが、専門に狙って釣る魚ではありません。
水深のある場所の底釣りで、偶然釣れることが多いです。
釣れた場合は、吸盤でお腹にくっついてくることもあるので驚かないでください。































