イカナゴ

春の訪れを告げる魚として知られるイカナゴ。特に関西地方ではイカナゴの稚魚を甘辛く煮詰めた釘煮が春の風物詩となっており各家庭で炊く醤油の香りが町を包みます。細長い体で砂に潜る習性があることから英語ではサンドランス(砂の槍)と呼ばれます。近年では海水温の上昇や環境の変化により漁獲量が激減しておりかつてのような安価な大衆魚から手の届きにくい高級魚へと変わりつつあります。水温が高くなると砂の中で夏眠するという不思議な生態を持つこの魚の秘密と春だけの特別な味わいについて解説します。
| 項目 | 内容 |
| 分類 | スズキ目イカナゴ科イカナゴ属 |
| 標準和名 | イカナゴ |
| 漢字 | 玉筋魚 |
| 別名 | コウナゴ(稚魚)、シンコ、カマスゴ(成魚)、メロード |
| 学名 | Ammodytes personatus |
| 英名 | Pacific sand lance |
| 季節 | 冬から春(稚魚は2月下旬から3月) |
| 生息域 | 日本各地の沿岸、内湾の砂底 |
イカナゴとは
イカナゴは日本各地の沿岸に生息する冷水性の魚です。
漢字では玉筋魚と書きますがこれは群れで泳ぐ姿が玉のような筋に見えることに由来すると言われています。
成長段階によって呼び名が変わり生まれたばかりの稚魚をシンコ(新子)、少し育ったものをコウナゴ(小女子)、成魚をフルセやカマスゴと呼びます。
特に瀬戸内海や伊勢湾ではシンコ漁が盛んであり春先に解禁されるシンコ漁は春の到来を告げる重要なイベントです。
かつては大量に獲れて養殖魚の餌や肥料としても使われていましたが現在は記録的な不漁が続いており資源保護が喫緊の課題となっています。
イカナゴの特徴
体長は成魚になると20センチメートルから25センチメートルほどになります。
体型は非常に細長い円筒形をしており槍のように尖った頭部と突き出した下顎が特徴です。
背ビレは長く背中のほぼ全体に及んでいますが腹ビレはありません。
体色は背中側が青褐色や緑褐色で腹側は銀白色をしています。
鱗は非常に小さく皮膚に埋没しているため手触りは滑らかです。
砂に潜るのに適した体をしており危険を感じると瞬時に砂の中に身を隠します。
イカナゴの生態とライフサイクル
食性は動物プランクトン食性で海流に乗ってくるコペポーダなどを捕食します。
冷たい海水を好み水温が15度を超えると活動が鈍くなり砂の中に潜って夏眠(かみん)と呼ばれる休眠状態に入ります。
夏の間は餌を食べずに砂の中でじっとして過ごし水温が下がる秋になると再び活動を開始します。
産卵期は冬(12月から1月頃)で潮通しの良い砂地の海底に粘着性のある卵を産み付けます。
寿命は3年程度と考えられています。
この夏眠という習性のため生息にはきれいな砂底が不可欠ですが海砂の採取や開発によって生息適地が減少していることも不漁の一因とされています。
イカナゴの分布と生息環境
北海道から九州までの日本各地に分布しています。
特に瀬戸内海、伊勢湾、三陸海岸、北海道沿岸などが主要な生息地です。
内湾の潮通しが良く底質が砂や砂礫になっている場所を好みます。
キビナゴと名前が似ていますがキビナゴは温帯から熱帯を好むニシン科の魚であり冷水性のイカナゴとは全く別の魚です。
イカナゴの漁法
主に船曳網漁や敷網漁で漁獲されます。
特に瀬戸内海や大阪湾のシンコ漁は2艘の船で網を曳くパッチ網漁が行われます。
資源管理が非常に厳しく行われており漁期(解禁日と終漁日)や操業時間が細かく決められています。
解禁日は毎年試験操業の結果を見て慎重に決定されます。
イカナゴの料理
春にしか味わえない新子の繊細な味と成魚の脂の乗った旨味はどちらも格別です。鮮度が落ちるのが非常に早いため生のまま流通することは少なく多くは釜揚げや加工品として販売されます。
釘煮(くぎに)
兵庫県や香川県などを中心とした郷土料理です。
生のイカナゴの稚魚(シンコ)を醤油、砂糖(ザラメ)、みりん、生姜で汁気がなくなるまで煮詰めます。
出来上がった姿が錆びた古釘のように見えることから釘煮と呼ばれます。
各家庭に秘伝のレシピがあり春になると親戚や友人に送る習慣があります。甘辛い味付けと生姜の風味はご飯のお供に最高です。
釜揚げ
水揚げされた直後のイカナゴを塩水で茹で上げたものです。
白くふっくらとした身は柔らかく癖のない甘みがあります。
ポン酢や酢味噌で食べたりサラダのトッピングにしたりします。
コウナゴ(小女子)の釜揚げとしてスーパーでよく見かけます。
かき揚げ・天ぷら
生のイカナゴが手に入ったら天ぷらがおすすめです。
サクサクとした食感の中にイカナゴの旨味が広がり春の香りを楽しめます。
カマスゴの酢の物
大きく育った成魚(フルセ)はカマスゴと呼ばれボイルして酢味噌や三杯酢で食べます。
脂が乗っており噛むとジュワッと旨味が溢れ出します。骨も柔らかいので丸ごと食べられます。
まとめ
イカナゴは砂の中で夏を越し冬に卵を産み春に私たちの食卓へやってくる季節の使者です。釘煮の香りは春の訪れそのものであり日本の食文化にとって欠かせない存在です。近年は不漁により高嶺の花になりつつありますが店頭でキラキラと輝くイカナゴを見かけたらその短い旬を逃さずに味わってみてください。
イカナゴに関するよくある質問
シラスとの違いは何ですか
シラスは主にカタクチイワシやマイワシの稚魚のことです。
見た目は似ていますがシラスは体が平たくて透明(釜揚げにすると白)であるのに対しイカナゴの稚魚は円筒形でやや茶色っぽいです。
またシラスは一年中獲れますがイカナゴの稚魚(シンコ)は早春の限られた時期にしか獲れません。味はシラスよりもイカナゴの方が風味が強くしっかりとした食感があります。
釘煮を作るコツは
絶対に箸でかき混ぜないことです。
煮ている最中に触ると身が崩れて団子状になってしまいます。
強火で一気に煮立たせ泡で包み込むようにして煮詰めるのがポイントです。
また鮮度が命なので買ってきたらすぐに炊くことが重要です。
なぜ不漁なのですか
複数の要因が考えられていますが主な原因は海水温の上昇と海中の栄養不足(貧栄養化)です。
海水温が上がると夏眠に適した水温の期間が短くなり生存率が下がります。
また水質がきれいになりすぎて餌となるプランクトンが減ってしまったことも大きな要因とされています。これを改善するために下水処理場の排水基準を緩和して海に栄養を戻す取り組みなども行われています。































