フジツボ

岩場やテトラポット、船底にびっしりと張り付き、海水浴客には「怪我をする厄介者」、船乗りには「燃費を悪くする天敵」として嫌われがちなフジツボ。しかし、その正体がエビやカニと同じ「甲殻類」であり、殻の中にはカニやエビの旨味を凝縮したような極上の身が詰まっていることを知る人は多くありません。一部の地域では「ミネフジツボ」などが高級食材として扱われ、また釣り人にとっては、幻の高級魚イシダイ(石鯛)を狂わせる「特効餌」としても知られています。見た目で損をしている、この不動の甲殻類の秘密に迫ります。
| 項目 | 内容 |
| 分類 | 顎脚綱(がくきゃくこう)フジツボ目 |
| 標準和名 | フジツボ(総称) |
| 漢字 | 藤壺、富士壺 |
| 別名 | ガゼ(地域による) |
| 学名 | Thoracica |
| 英名 | Barnacle |
| 季節 | 夏(種類によるが、ミネフジツボは夏が旬) |
| 生息域 | 世界中の潮間帯から深海、浮遊物 |
フジツボとは
フジツボは、固い殻を持つため貝の仲間(軟体動物)と思われがちですが、実はエビやカニと同じ「甲殻類」の仲間です。
子供の頃(幼生)はプランクトンとして海中を泳ぎ回っていますが、適当な場所を見つけると頭部から接着物質を出して張り付き、一生その場所から動かずに生活します。この接着力は驚異的で、歯科用セメントの研究などにも応用されています。
日本には数十種類が生息しており、直径数ミリの小型種から、食用となる直径数センチの大型種(ミネフジツボ、アカフジツボなど)まで様々です。
フジツボの特徴
石灰質の硬い殻で覆われており、上部に開口部があります。海水中ではここから蔓脚(まんきゃく)と呼ばれる、羽毛のような脚を出し入れしてプランクトンを捕食します。この蔓脚の動きは、仰向けになったエビが手足をバタつかせている姿に似ており、まさに甲殻類である証拠です。
外見が富士山の形に似ていることや、藤棚の壷に似ていることが名前の由来とされています。
フジツボの生態とライフサイクル
食性
濾過食性(ろかしょくせい)です。蔓脚を網のように広げ、海水中の動植物プランクトンを濾し取って食べます。自分から移動して獲物を捕ることができないため、水流のある場所を好みます。
繁殖と成長
フジツボは「雌雄同体(しゆうどうたい)」ですが、自家受精はせず、隣り合った個体同士で交尾を行います。殻の中に非常に長い生殖器を持っており、これを伸ばして隣の個体に精子を送ります。
孵化した幼生(ノープリウス幼生)は泳ぎ出し、変態を経て「キプリス幼生」となり、定着場所を探します。一度くっつくと二度と離れることはできず、脱皮を繰り返しながら殻を大きくしていきます。
フジツボの分布と生息環境
世界中の海に分布しています。
潮の満ち引きがある潮間帯の岩礁、堤防、テトラポット、船底、さらにはクジラやウミガメの体表など、硬いものなら何にでも付着します。
食用として価値の高い「ミネフジツボ」は、青森県の陸奥湾など、寒冷で栄養豊富な海域で養殖も行われています。
フジツボの利用(釣り・採取)
フジツボは、特定の釣りにおいて最強の餌となります。
イシダイ釣り(落とし込み)
「磯の王者」イシダイは、硬い殻を噛み砕く強力な顎を持っており、フジツボが大好物です。岸壁からフジツボを採取し、針に刺して落とし込む「フジツボの落とし込み釣り」は、黒鯛(チヌ)やコブダイも狙える実績の高い釣法です。また、ルアーフィッシングにおいても、フジツボを模した「フジツボ型ワーム」や「パイプ」が、岸壁に居着くクロダイ(チヌ)狙いで使用されます。
採取の注意点
スクレイパーやタガネ、ハンマーを使って根元から剥がし取ります。しかし、フジツボの殻はナイフのように鋭く、手や足を切りやすいため、厚手の手袋と磯靴が必須です。また、漁業権が設定されているエリアでは無断採取は密漁となるため、事前の確認が必要です。
フジツボの料理
「見た目は岩、味はカニ」と評される通り、非常に濃厚な出汁と甘みを持っています。特に大型のミネフジツボは高級食材です。
酒蒸し・塩茹で
最もポピュラーな食べ方です。殻ごと蒸すか茹でると、磯の香りと共に濃厚なカニのような香りが立ち上ります。殻の中にある身をほじくり出して食べると、カニミソとカニ身を合わせたようなコクのある味が口いっぱいに広がります。
味噌汁
良い出汁が出るため、味噌汁の具としても優秀です。殻から染み出す旨味が汁に溶け込み、絶品です。
炭火焼き
殻のまま網に乗せて焼きます。中の水分が沸騰し、グツグツとなってきたら食べ頃です。醤油を垂らすと香ばしさが加わり、日本酒との相性は抜群です。
まとめ
フジツボは、船底に付着して船の速度を落とす「海の厄介者」としての側面が目立ちますが、その生態は進化の不思議に満ちており、味は食通を唸らせるほどの実力を持っています。夏の海岸で足を切らないように注意しつつ、もし大型のものが手に入る機会があれば、その「動かない甲殻類」の濃厚な味をぜひ体験してみてください。
フジツボに関するよくある質問
中身はどうなっていますか?
殻の中に、エビやカニを逆さまにして押し込んだような体が入っています。食べる際は、この筋肉部分と、水分を含んだ柔らかい部分を食べます。
毒はありませんか?
基本的に毒はありませんが、プランクトンを濾過して食べているため、赤潮が発生している海域や、水質が極端に悪い場所のものは食用を避けた方が無難です。
船底のフジツボはどうやって防ぐのですか?
船底塗料(防汚塗料)を塗ることで付着を防ぎます。フジツボが付着すると水の抵抗が増え、燃費が極端に悪化(20%〜30%ダウンすることも)するため、定期的なメンテナンスと除去作業が欠かせません。































