キタマクラ

愛らしいパステルカラーの体色と、おちょぼ口で泳ぐ姿はまるで観賞魚のようですが、その名には「死」を連想させる恐ろしい意味が込められています。キタマクラ(北枕)。これを食べると中毒死して北枕で寝かされることになる、という戒めから名付けられた毒魚です。堤防釣りや磯釣りでは、鋭い歯で釣り糸を噛み切ったり餌を掠め取ったりする「エサ取り名人」として嫌われていますが、そのユーモラスな行動や美しい模様から、ダイバーや水槽での飼育者には密かな人気があります。可愛い見た目に隠された毒と、釣り人との攻防について解説します。
| 項目 | 内容 |
| 分類 | フグ目フグ科キタマクラ属 |
| 標準和名 | キタマクラ |
| 漢字 | 北枕 |
| 別名 | キンチャクフグ(混称) |
| 学名 | Canthigaster rivulata |
| 英名 | Brown-lined puffer |
| 季節 | 通年 |
| 生息域 | 本州中部以南の岩礁帯、サンゴ礁 |
キタマクラとは
キタマクラは、日本の暖かい海沿岸の岩場やサンゴ礁でごく普通に見られる小型のフグです。
名前の由来は、食べると猛毒で死んでしまい、遺体を北枕(頭を北に向けて寝かせる仏教の風習)にすることになるという説が最も有名です。
実際には皮膚や内臓にテトロドトキシンという毒を持っていますが、致死量はそれほど多くはないとも言われています。しかし、「食べれば死ぬ」という強い警告の意味を込めてこの名が定着しました。
釣り人の間では、本命の魚が釣れる前に現れて餌を奪っていく「エサ取り」の代表格として知られています。
人懐っこい性格で、ダイバーが近づいても逃げないことが多く、海の中ではアイドル的な存在として扱われることもあります。
キタマクラの特徴
体長は10センチメートルから15センチメートル程度と小型です。
体型は他のフグ同様にずんぐりとしていますが、やや側扁(左右に平たい)しています。
体色は個体差がありますが、一般的には背中側が茶褐色で、お腹側は白っぽいです。
最大の特徴は、体中に走る鮮やかなブルーの不規則な線や斑点です。
特にオスは繁殖期になるとこの青色が鮮やかになり、メスへのアピールを行います。
また、目の周りには放射状の青い線があり、これが「シワ」のように見えることから、老人のような顔つきをしているとも言われます。
危険を感じると、腹部の膜を広げて体を大きく見せようとします(他のフグのように真ん丸には膨らみません)。
毒性と危険性
キタマクラは小型ですが、立派な毒魚です。
- 皮膚(皮):強毒
- 腸・肝臓:中毒〜弱毒
- 精巣・卵巣:弱毒
- 筋肉(身):無毒〜弱毒
注意点: 筋肉自体は無毒に近いとされていますが、皮膚に強い毒があることが最大の問題です。
調理しようとして皮を剥ぐ際に、皮の毒(粘液)が身に付着してしまうリスクが高く、素人が調理して食べることは極めて危険です。
絶対に食べないでください。
キタマクラの生態
食性は雑食性で、海藻や小型の甲殻類、ゴカイ、貝類などを鋭い歯で齧り取って食べます。
昼行性で、夜間は岩の隙間や海藻の陰で眠ります。
縄張り意識が強く、自分のテリトリーに入ってきた他の魚を追い払う行動が見られます。
繁殖期は夏で、オスが岩の表面などを掃除して縄張りを作り、メスを誘い込んで産卵させます。
釣り人にとっての「厄介者」
磯釣りや堤防釣りにおいて、キタマクラは非常に厄介な存在です。
ハリス切れ
上下の歯が癒合してクチバシ状になっており、非常に鋭利です。
釣り針ごと餌を飲み込み、ハリス(釣り糸)を噛み切ってしまうことが多発します。
大切な仕掛けを次々と切られるため、釣り人からは「ハリス泥棒」と呼ばれ忌み嫌われます。
エサ取り
ホバリング(空中停止のような泳ぎ)が得意で、餌の周りを漂いながら巧みに肉だけを啄み取ります。
アタリ(魚信)が出ないまま餌だけがなくなっている場合、犯人はキタマクラであることが多いです。
キタマクラの飼育
食用には適しませんが、観賞魚としては人気があります。
丈夫で病気になりにくく、餌もよく食べるため初心者でも飼育しやすいフグの一つです。
人によく慣れ、餌をおねだりする仕草は非常に愛らしいです。
ただし、気が強く他の魚のヒレを齧ることがあるため、混泳には注意が必要です。
まとめ
キタマクラは、「北枕」という不吉な名前とは裏腹に、海の中を彩るユーモラスで美しい魚です。釣り人にとっては天敵ですが、その生態や毒を持つ理由を知れば、彼らもまた懸命に生きる海の一員であることがわかります。もし釣れてしまっても、素手で触ったり食べたりせず、その愛嬌のある顔を観察してから海に帰してあげてください。
キタマクラに関するよくある質問
触ったら毒にやられますか
触っただけで死ぬようなことはありません。
皮膚にある毒は摂取することで中毒を起こすものですが、粘液に毒が含まれている可能性があります。
傷口がある手で触ったり、触った手で目や口をこすったりすると炎症を起こす恐れがあるため、触れた後は必ずきれいに手を洗ってください。
フィッシュグリップや針外しを使って、直接触れないようにリリースするのがベストです。
食べられる部分はありますか
筋肉(身)は無毒または弱毒とされていますが、絶対に食べてはいけません。
前述の通り、皮の毒性が強いため、調理過程で身が汚染される可能性が非常に高いからです。
サイズも小さく、可食部も少ないため、リスクを冒してまで食べる価値はありません。
膨らみますか
ハリセンボンやトラフグのようにパンパンに真ん丸に膨らむことはありません。
興奮したり危険を感じたりすると、お腹の下にある膜(皮)を広げて、縦に平べったく体を拡張させます。
これにより体を大きく見せて威嚇します。































