キアンコウ

冬の味覚の王様「アンコウ鍋」。この鍋に使われているアンコウのほとんどが、実はこの「キアンコウ」であることをご存知でしょうか?日本では主に「キアンコウ」と「クツアンコウ(ホンアンコウ)」の2種類が流通していますが、市場で単に「アンコウ」として売られているものの9割以上は、このキアンコウだと言われています。巨大な口にズングリとした体、そしてヌルヌルの皮膚というグロテスクな見た目からは想像できない、繊細な白身と「海のフォアグラ」とも呼ばれる絶品の肝(アンキモ)を持つ、冬の食卓の主役について解説します。
| 項目 | 内容 |
| 分類 | アンコウ目アンコウ科キアンコウ属 |
| 標準和名 | キアンコウ |
| 漢字 | 黄鮟鱇 |
| 別名 | ホンアンコウ(※市場での混称)、アンコウ |
| 学名 | Lophius litulon |
| 英名 | Yellow goosefish / Monkfish |
| 季節 | 冬(特に12月〜2月が肝が大きくなる) |
| 生息域 | 北海道以南の日本各地、東シナ海の砂泥底 |
キアンコウとは
キアンコウは、水深数十メートルから数百メートルの砂泥底に生息する大型の底生魚です。
体長は1メートルを超え、最大で1.5メートルにもなります。
体は押しつぶされたように平たく、頭と口が巨大です。
頭の上には「誘引突起(イリシウム)」と呼ばれる長いアンテナのようなものがあり、その先端のヒラヒラ(擬餌状体)を小魚のように動かして獲物をおびき寄せ、丸呑みにする「待ち伏せ型」の狩りを行います。
普段は砂に潜って擬態しているため、体色は砂泥に馴染む茶褐色や黄褐色をしています。
江戸時代から「西のフグ、東のアンコウ」と称されるほど、東日本(特に茨城県や福島県)を代表する冬の高級食材です。
「キアンコウ」と「アンコウ(ホンアンコウ)」の見分け方
市場ではどちらも「アンコウ」として売られますが、厳密には標準和名「キアンコウ」と「アンコウ(通称:ホンアンコウ・クツアンコウ)」は別種です。
見分けるポイントは**「口の中」**にあります。
| 特徴 | キアンコウ(本種) | アンコウ(ホンアンコウ) |
| 口の中 | 白い水玉模様や虫食い模様がある | 模様がなく、白っぽい |
| 体色 | 全体的に黄褐色・茶色 | 全体的に黒っぽい・灰色 |
| 肝(キモ) | 脂が乗って大きく、評価が高い | キアンコウに比べるとやや小さい |
| 流通量 | 非常に多い(市場の主流) | 少ない |
一般的に、身の味はホンアンコウの方が繊細で上質とされますが、アンコウ料理の醍醐味である**「肝(アンキモ)」に関しては、キアンコウの方が大きく育ち脂乗りが良い**とされ、鍋用としてはキアンコウの方が重宝される傾向があります。
名物「吊るし切り」と「七つ道具」
アンコウは体が巨大で表面がヌルヌルしており、さらに体に骨が少なくフニャフニャしているため、まな板の上でさばくのが困難です。
そこで考案されたのが、下顎をフックに掛けて吊るし、水を入れながら回転させてさばく**「吊るし切り」**という伝統的な解体方法です。
また、アンコウは「捨てるところがない」と言われる魚です。
以下の7つの部位は**「アンコウの七つ道具」**と呼ばれ、それぞれ異なる食感と味わいを楽しめます。
- 肝(キモ):海のフォアグラ。濃厚なコクの塊。
- とも(ヒレ):ゼラチン質でプルプル。
- ぬの(卵巣):プチプチとした食感。
- 柳肉(身):淡白で上品な白身。
- 水袋(胃):コリコリとしたホルモンのような食感。
- エラ:独特の歯ごたえ。
- 皮:コラーゲンたっぷり。
※唯一捨てられるのは、硬い骨と眼球、顎の一部くらいです。
キアンコウの料理
冬のアンコウは、何をどうしても美味しくなります。
あんこう鍋(どぶ汁)
キアンコウの真骨頂です。
茨城県などの漁師料理「どぶ汁」は、水を使わず、アンコウの身から出る水分と大量の肝、そして味噌だけで煮込む超濃厚な鍋です。
家庭で作る一般的なあんこう鍋も、肝を一度乾煎りして味噌に溶かし込む(とも酢にする)ことで、コクのある絶品スープになります。
あん肝(蒸し肝)
新鮮な肝を血抜きし、酒と塩で味付けして蒸し上げます。
ねっとりとした舌触りと濃厚な脂の甘みは、日本酒との相性が世界一と言っても過言ではありません。
ポン酢ともみじおろしでいただきます。
アンコウの唐揚げ
身や胃袋、皮などを唐揚げにします。
水分が抜けて旨味が凝縮され、フグの唐揚げにも似た弾力のある食感になります。
骨(軟骨)も柔らかくなり食べやすいです。
共和え(ともあえ)
茹でた身や皮を、裏ごしした肝と味噌・酢で和えた料理です。
肝のソースを全身に纏わせる贅沢な食べ方で、青森県などの郷土料理としても知られます。
まとめ
キアンコウは、そのインパクトのある見た目とは裏腹に、冬の日本人の舌を喜ばせてくれる最高の食材です。私たちが普段「アンコウ美味しいね」と言いながら食べている鍋の主役は、十中八九このキアンコウです。もし魚屋で丸ごとのアンコウを見かけたら、ぜひ口の中を覗いてみてください。そこに模様があれば、それは肝が美味しくて有名なキアンコウです。
キアンコウに関するよくある質問
刺身で食べられますか
鮮度が抜群に良ければ刺身で食べられます。
透き通った白身は、ヒラメやフグのような淡白な甘みと弾力があり、非常に美味です。
しかし、水分が多く鮮度落ちが早いため、産地以外で刺身が出ることは稀です。
また、アニサキス対策も必要なため、加熱調理が一般的です。
肝(アンキモ)が一番美味しい時期はいつですか
12月から2月頃の冬場です。
春の産卵に向けて栄養を蓄えるため、肝臓が肥大化し、脂が乗ってオレンジ色になります。
逆に夏のアンコウは「夏アンコウ」と呼ばれ、肝は小さいですが身があっさりしていて美味しいとされます(ただし価格は安くなります)。
骨は食べられますか
背骨などの太い骨以外は、ほとんどが軟骨に近いので食べられます。
特にヒレの付け根や皮の近くの骨は、よく煮込んだり揚げたりすると、ゼラチン質と共に美味しくいただけます。
「七つ道具」に残さず食べ尽くす精神が込められています。































