ベニザケ

日本の朝食といえば「焼き鮭」。その中でも、ひときわ鮮やかな赤色と、濃厚な旨味で「サケの王様」として愛されているのがベニザケ(紅鮭)です。スーパーの切り身コーナーでは定番の魚ですが、実は日本国内の川には遡上しないため、私たちが食べているのは北洋(ロシアやアラスカ)からの輸入ものがほとんどだということをご存知でしょうか。加熱してもあざやかな赤色が色褪せないその身の秘密や、湖に残った「ヒメマス」との意外な関係、そしてご飯との相性が最高な理由について解説します。
| 項目 | 内容 |
| 分類 | サケ目サケ科タイヘイヨウサケ属 |
| 標準和名 | ベニザケ |
| 漢字 | 紅鮭 |
| 別名 | ベニ、レッドサーモン |
| 学名 | Oncorhynchus nerka |
| 英名 | Sockeye salmon / Red salmon |
| 季節 | 初夏から夏(北洋での漁期) |
| 生息域 | 北太平洋、オホーツク海、ベーリング海 |
ベニザケとは
ベニザケは、北太平洋の冷たい海に生息するサケの一種です。
シロザケ(秋鮭)やギンザケ(養殖サーモン)など、食卓に並ぶサケにはいくつかの種類がありますが、ベニザケはその名の通り、身の色が最も赤いのが特徴です。
生まれた稚魚が海へ下る前に、一度「湖」で育つという特有の生態を持っており、適切な湖を持たない日本の川には、天然のベニザケは基本的に遡上しません(迷い鰹ならぬ迷い鮭として稀に見つかる程度です)。
そのため、日本で流通しているベニザケの99%以上は、ロシア、アメリカ(アラスカ)、カナダなどの北洋で漁獲された天然物です。
養殖が非常に難しく成長も遅いため、長らく養殖物は存在しませんでしたが、近年ごく一部で陸上養殖の研究が進められています。
なぜこんなに赤いのか(ヒメマスとの関係)
【赤色の秘密:アスタキサンチン】
ベニザケの身が濃い赤色をしているのは、エサとして食べているオキアミなどのプランクトンに含まれる赤い色素「アスタキサンチン」を筋肉に大量に蓄積しているからです。
他のサケ類よりも動物プランクトンへの依存度が高いため、より赤くなると言われています。
アスタキサンチンは強力な抗酸化作用を持っており、産卵のために長い距離を泳ぐ彼らのエネルギー源や体を守る役割を果たしています。
【劇的な変身】
海にいる間は背中が青緑色で腹が銀色をしていますが、産卵期になって川を遡上し始めると、体全体が鮮烈な紅色に、頭部が緑色に変わります。
さらにオスは背中が盛り上がり(セッパリ)、鼻が曲がって非常に厳つい姿に変貌します。
【湖の妖精ヒメマス】
実は、北海道の支笏湖や青森県の十和田湖などで名産となっている**「ヒメマス(チップ)」**は、ベニザケが海に降りずに一生を湖で過ごすようになったもの(陸封型)です。
つまり、ベニザケとヒメマスは生物学的には全く同じ種類の魚なのです。
食材としての評価
味に関しては、サケ類の中でトップクラスの評価を得ています。
養殖サーモンのような脂ギトギトの感じではなく、天然魚特有の程よい脂乗りと、凝縮された強い旨味が特徴です。
身質はしっかりとしていて味が濃く、塩を振ることでさらに旨味が引き立ちます。
また、加熱しても身の赤色が退色せず、むしろ鮮やかになるため、おにぎりの具や彩りを添える食材としても重宝されます。
天然物であることや漁獲量の変動により、価格はギンザケやシロザケに比べて高価な傾向にあります。
ベニザケの料理
「焼き鮭」にするならベニザケが一番と言われるほど、シンプルな加熱料理に向いています。
塩焼き(厚切り)
ベニザケの魅力を最大限に味わうなら、やはり塩焼きです。
塩をして少し置くことで、余分な水分が抜け、アミノ酸(旨味)が凝縮されます。
皮もパリッと焼けば美味しく、白いご飯との相性は日本人なら誰もが知る至高の組み合わせです。
スモークサーモン
身の赤色が美しく、脂が上品なため、高級なスモークサーモンの原料として使われます。
鮮やかな赤とスモークの香りが、ワインやウイスキーによく合います。
飯寿司(いずし)・切り込み
北海道や東北地方の郷土料理です。
麹や野菜と一緒に漬け込んで発酵させた「飯寿司」や、塩と麹で熟成させた「切り込み」にすると、ベニザケの濃厚な味がさらに深まります。
ルイベ・刺身
基本的に天然のサケにはアニサキスなどの寄生虫のリスクがあるため、生のままでは食べられません。
一度冷凍して寄生虫を死滅させた「ルイベ」や「解凍刺身」であれば食べられます。
ねっとりとした食感と濃い味わいは、養殖サーモンとは一線を画す美味しさです。
まとめ
ベニザケは、日本の川には帰ってこないけれど、日本の食卓にはなくてはならない「遠い北国の天然魚」です。その鮮やかな赤色は、厳しい北の海を生き抜くために蓄えた生命力の色でもあります。スーパーで切り身を選ぶ際、ひときわ赤く輝くものがあれば、それはきっと美味しいベニザケです。養殖物にはない、天然のコクとキレのある脂を、熱々の塩焼きで堪能してみてください。
ベニザケに関するよくある質問
養殖のベニザケはありますか
市場に出回っているベニザケは、ほぼ全てが天然物です。
ベニザケは病気に弱く成長も遅いため、ギンザケやアトランティックサーモンのように海面での養殖が商業的に成功していません。
ただし、近年では国内で淡水を使った陸上養殖などの試みが行われており、一部で流通し始めていますが、まだ極めて稀です。
アトランティックサーモンとどう違いますか
アトランティックサーモン(大西洋サケ)は、主にノルウェーやチリで養殖されたものが流通しており、脂が非常に多く、身の色はピンク色(オレンジ色)で、刺身で食べられるのが特徴です。
ベニザケは天然物で、身の色が濃い赤色をしており、脂は適度で味が濃く、主に加熱用(塩鮭など)として流通します。
旬はいつですか
北洋での漁が行われる6月から8月頃が旬です。
この時期に獲れたベニザケは脂が乗って特に美味しいとされます。
冷凍技術の発達により一年中美味しく食べられますが、初夏に出回る「新物」の塩ベニザケは格別の味わいです。































