アイゴ

ヒレに鋭い毒の棘を持ち、刺されると激痛に襲われることから、多くの釣り人にとって忌み嫌われる存在であるアイゴ。しかし、西日本、特に徳島県や和歌山県、九州地方では「バリ」と呼ばれ、その味を愛してやまない熱狂的なファンを持つ魚でもあります。適切に処理された身は「皿ねぶり(皿まで舐めるほど美味い)」と称されるほどの絶品であり、独特の磯の香りと強い引き味は、一度ハマると抜け出せない魅力を持っています。近年問題となっている「磯焼け」の原因生物としても注目される、この危険で美味しい魚の正体に迫ります。
| 項目 | 内容 |
| 分類 | スズキ目アイゴ科アイゴ属 |
| 標準和名 | アイゴ |
| 漢字 | 藍子、阿乙呉 |
| 別名 | バリ、アイ、アイノバリ、ウミアイ、モアイ |
| 学名 | Siganus fuscescens |
| 英名 | Rabbitfish / Mottled spinefoot |
| 季節 | 夏から秋(旬は夏〜秋) |
| 生息域 | 本州中部以南の沿岸、岩礁帯 |
アイゴとは
アイゴは、日本の暖かい海に広く生息するアイゴ科の魚です。
堤防や磯釣りでよく見かけますが、背ビレ、腹ビレ、尻ビレに太く鋭い棘を持ち、そのすべてに毒腺があるため、素手で触るのは厳禁です。関東などでは外道としてリリースされることが多いですが、関西以西では専門の狙い釣り(バリ釣り)が行われるほど人気があります。
英名で「ラビットフィッシュ」と呼ばれるのは、その小さな口と丸い顔つきがウサギに似ていることや、海藻をウサギのように食べる習性に由来します。
アイゴの特徴
体は側扁して平たく、全体的に褐色ですが、環境や興奮状態によって白っぽい斑紋が現れたり、色が濃くなったりと体色を変化させます。
最大の特徴はやはり毒棘です。背ビレ、尻ビレ、腹ビレの棘は非常に硬く鋭利で、少し触れただけでも刺さります。刺されるとハチに刺されたような激しい痛みが数時間から数日続きます。
口は小さくおちょぼ口ですが、歯は丈夫で、海藻を噛み切るのに適しています。
アイゴの生態とライフサイクル
食性(磯焼けの原因)
雑食性ですが、成長すると植物食性が強くなり、岩に生えた海藻を好んで食べます。その食欲は凄まじく、群れで押し寄せて岩場の海藻を食べ尽くしてしまうため、海藻がなくなる「磯焼け」の主要な原因魚種の一つとされています。この問題を解決するため、キャベツなどを餌にして養殖し、食用化する試みも行われています。
独特の臭み
海藻を主食としているため、内臓には独特の磯臭さ(アンモニア臭に近い匂い)があります。死後に時間が経つと、この臭いが内臓から身に移ってしまうため、アイゴを美味しく食べるには、釣った直後の「活け締め」と「内臓処理」が絶対に不可欠です。
アイゴの分布と生息環境
本州中部以南の日本各地、朝鮮半島、中国沿岸などに分布しています。
沿岸の岩礁帯や堤防周り、海藻が生えている浅い海を好みます。群れで行動することが多く、コマセ(撒き餌)を撒くと真っ黒になるほど集まってくることがあります。
毒への対処法
もしアイゴに刺されてしまった場合は、慌てずに以下の処置を行ってください。
アイゴの毒はタンパク質性であり、熱に弱いという性質を持っています。刺された患部を、火傷しない程度(43度から45度くらい)の熱めのお湯に浸すと、毒が分解されて痛みが劇的に和らぎます。釣り場には魔法瓶にお湯を持参するか、自動販売機でホットドリンクを買って当てるなどの応急処置が有効です。
アイゴの釣り方
アイゴは引きが非常に強く、サイズ以上に楽しませてくれるファイターです。
ウキフカセ釣り・サビキ釣り
チヌ(クロダイ)やグレ(メジナ)釣りの外道としてよく掛かります。また、サビキ釣りでも掛かることがありますが、暴れて仕掛けを複雑に絡ませてしまう「オマツリ」の原因になるため、嫌われることもあります。掛かると横に走り回り、強烈な引きを見せます。
酒粕釣り(バリ釣り)
和歌山県などで盛んな伝統釣法です。酒粕と米ぬかを混ぜた練り餌を使い、専用の「ラセン仕掛け」や「二段ウキ」で狙います。独特の匂いでアイゴを寄せ、小さなアタリを掛けていく専門性の高い釣りです。
アイゴ釣りに必要な道具
何よりも安全対策が最優先です。
必須アイテム
- フィッシュグリップ(魚バサミ): 魚体を挟んで固定するために必須です。
- プライヤー・ハサミ: 針を外したり、毒棘を切り落としたりするのに使います。
- 厚手の手袋: 万が一のために着用しておくと安心です。
タックル
磯竿1.5号前後、道糸2号〜3号、ハリス1.5号〜2号程度。引きが強いため、細すぎる仕掛けだと切られることがあります。
アイゴの料理
「アイゴの皿ねぶり」という言葉がある通り、適切に処理されたアイゴは絶品です。
処理の鉄則
釣り上げたらすぐに活け締め(血抜き)をし、その場で内臓を取り出すのがベストです。毒棘もハサミで切り落としておくと、持ち帰ってからの調理が安全です。特に内臓を傷つけないように取り出すことが、臭みを身に移さないコツです。
刺身・洗い
新鮮なアイゴの身は、弾力が強くコリコリとしており、噛むほどに旨味が溢れます。少し磯の香りがありますが、それが日本酒によく合います。薄く切って氷水で締める「洗い」にすると、臭みが抜けてさっぱりと頂けます。酢味噌との相性も抜群です。
一夜干し
アイゴ料理の最高峰とも言われます。開いて塩水に漬け、干物にすると、独特の香りが食欲をそそる芳醇な風味に変わります。焼いた時の香ばしさは格別です。
煮付け
醤油と生姜で甘辛く煮付けると、身が締まって美味です。ご飯のおかずに最適です。
まとめ
アイゴは、毒棘という危険な武器と、磯臭さという癖を持っていますが、それを補って余りある美味しさと引きの強さを持つ魚です。海藻を食べ尽くす厄介者としての側面もありますが、人間が美味しく食べることで海の環境を守ることにも繋がります。もし釣り上げたら、毒に十分注意しながら棘を切り、美味しく頂いてみてください。その味を知れば、きっと「バリ」のファンになるはずです。
アイゴに関するよくある質問
死んだアイゴなら触っても大丈夫ですか?
いいえ、危険です。アイゴの毒は死んでも棘の中に残っています。クーラーボックスの中で死んでいるアイゴや、堤防に放置された干からびたアイゴであっても、棘が刺されば毒が注入されて激痛が走ります。調理の際も最後まで油断しないでください。
臭みのないアイゴを見分けるには?
一般的に、夏場よりも水温が下がる冬場のアイゴの方が、海藻由来の臭みが少なく脂が乗って美味しいと言われています。また、釣り上げてからの処理の速さが全てですので、自分で釣って即座に処理したものが最も臭みが少ないです。
名前の由来は?
釣り上げるときに「アイ!アイ!」と鳴くように聞こえるからという説や、毒棘があるため「愛護(大事に扱う)」する必要があるからという説、あるいはトゲが藍色に見えるからなど、諸説あります。































