ツチクジラ
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イルカをそのまま巨大化させたような細長い口(吻)と、全身に刻まれた無数の白い傷跡が特徴のツチクジラ。アカボウクジラ科に属するクジラの中では世界最大種であり、体長は10メートルを超えます。日本近海を含む北太平洋にのみ生息しており、古くから日本の沿岸捕鯨の主要なターゲットとして人々の生活を支えてきました。特に千葉県の房総半島(南房総市和田町)では、夏にツチクジラ漁が行われ、天日で干した「タレ」という保存食が郷土料理として受け継がれています。深海へ潜る能力に長け、マッコウクジラと並ぶ潜水の名手でもあるこのクジラの生態や、名前の由来、そして伝統的なクジラ食文化について解説します。
| 項目 | 内容 |
| 分類 | 偶蹄目(クジラ偶蹄目)アカボウクジラ科ツチクジラ属 |
| 標準和名 | ツチクジラ |
| 漢字 | 槌鯨 |
| 別名 | ツチ(捕鯨用語)、オオギハ(大牙) |
| 学名 | Berardius bairdii |
| 英名 | Baird’s beaked whale |
| 生息域 | 北太平洋(日本近海、オホーツク海、ベーリング海) |
| 食性 | イカ類、深海魚 |
目次
ツチクジラとは
ツチクジラは、北太平洋の冷温帯から亜寒帯にかけて生息するアカボウクジラ科の最大種です。
日本近海は世界的に見てもツチクジラの生息密度が高い海域であり、北海道、三陸、房総半島の沖合でよく見られます。
クジラの中でも特に深海への潜水能力が高く、水深1,000メートル、時には3,000メートル近くまで潜り、1時間以上息を止めて深海のイカや魚を捕食します。
日本では商業捕鯨の対象種(IWCの管轄外である小型捕鯨業の対象)となっており、現在でも宮城県や千葉県、北海道で捕獲枠に従って漁が行われています。
名前の「ツチ(槌)」は、昔の木槌(きづち)や杵(きね)に体型や頭の形が似ていることに由来すると言われています。
ツチクジラの特徴
【巨大なイルカのような姿】
体長は10メートルから12メートルに達し、体重は10トンを超えます。
このサイズでありながら、バンドウイルカのように長く突き出た口(吻)を持っています。
下顎が上顎よりも長く、口を閉じていても下顎の先端にある2対の歯(オスで特に発達する)が外に見えることがあります。
【体色と傷跡】
生まれた時は黒っぽい灰色ですが、成長するにつれて背中側や体側に白い斑点や線状の傷跡が増えていきます。
これはオス同士の闘争や、深海ザメの一種であるダルマザメに噛まれた跡だと考えられています。
老成すると全身が白っぽく見えることもあります。
【独特の潮吹き】
ツチクジラの噴気(潮吹き)は、低くて横に広がった扇形のような形をしています。
海面での滞在時間が短く、一度潜ると長時間上がってこないため、海上での発見は比較的難しいとされています。
捕鯨と食文化
ツチクジラは、日本の「古式捕鯨」や現代の「沿岸小型捕鯨」において重要な位置を占めています。
特に千葉県の南房総市和田町は、関東で唯一の捕鯨基地があり、夏になるとツチクジラの水揚げが行われます。
地域住民にとっては「夏のスタミナ源」として親しまれており、解体された肉は鮮魚店やスーパーに並びます。
ミンククジラなどのヒゲクジラ類とは異なり、ハクジラ類特有のクセや味わいがあるため、地域ごとの独特な加工法や料理法が発達しました。
食材としての評価
肉質は赤身で、鉄分が多く濃厚な味わいです。
ハクジラ類であるため、ミンククジラなどに比べると肉の色が濃く、少しクセ(獣臭さ)を感じることもありますが、これが「クジラらしい味」として好まれる理由でもあります。
適切な血抜き処理をされた新鮮な肉は刺身でも美味ですが、多くは加熱調理や加工品(ベーコン、大和煮の缶詰、干物)として利用されます。
脂身の部分は旨味が強く、ベーコンにすると絶品です。
ツチクジラの料理
伝統的な保存食から、現代風の揚げ物まで様々です。
タレ(クジラの干物)
千葉県南房総地域の郷土料理です。
ツチクジラの赤身肉をスライスし、醤油や酒、砂糖で作った特製のタレに漬け込んで天日で干したものです。
真っ黒い見た目は炭のようですが、軽く炙って食べるとビーフジャーキーのような食感と凝縮された肉の旨味が口いっぱいに広がります。
保存性が高く、お酒のつまみや子供のおやつとして愛されています。
竜田揚げ
給食の定番メニューとして記憶している人も多い料理です。
生姜醤油に漬け込んだ肉に片栗粉をまぶして揚げます。
生姜の効果で臭みが消え、噛みごたえのある肉はお肉そのものです。
ツチクジラの肉は加熱しても味がしっかり残るため、揚げ物に最適です。
大和煮(やまとに)
缶詰でおなじみの味です。
生姜を効かせた甘辛い醤油ダレで煮込みます。
ホロホロになった肉と濃厚なタレはご飯のおかずにぴったりです。
刺身・ユッケ
水揚げされたばかりの新鮮なツチクジラは、刺身で食べられます。
おろしニンニクや生姜醤油をたっぷりとつけて食べます。
ごま油と卵黄を絡めたユッケ風にすると、濃厚な赤身の味を楽しめます。
まとめ
ツチクジラは、イルカのような顔をした深海の巨大ダイバーであり、日本の沿岸捕鯨文化を今に伝える生き証人です。その体には厳しい自然界を生き抜いた傷跡が刻まれ、その肉は港町の人々の命を支える糧となってきました。スーパーで「クジラのタレ」や「大和煮」を見かけたら、それは遠い北の海深く潜っていたこのツチクジラかもしれません。独特の風味と歯ごたえを持つその味を通して、海と人との長い歴史を感じてみてください。
ツチクジラに関するよくある質問
イルカですか、クジラですか
生物学的には「クジラ」に分類されます。
一般的に体長4メートル以下をイルカ、それ以上をクジラと呼びますが、ツチクジラは10メートルを超えるため完全にクジラです。
ただし、顔つきはイルカ(特にバンドウイルカ)に似ているため、「巨大なイルカ」という表現が使われることもあります。
どこで食べられますか
主に捕鯨基地がある地域で食べられます。
千葉県の南房総市(和田漁港周辺)、宮城県の石巻市(鮎川)、北海道の函館市や網走市などが有名です。
これらの地域の鮮魚店、道の駅、クジラ料理専門店で提供されているほか、通信販売で「クジラのタレ」や缶詰を購入することも可能です。
味にクセはありますか
ミンククジラなどのヒゲクジラに比べると、ハクジラ特有のクセ(血の匂いや野性味)が少し強い傾向があります。
しかし、新鮮なものは臭みが少なく、適切に調理(生姜やニンニクを使用、干物にするなど)されたものは非常に美味しいです。
好き嫌いは分かれますが、ハマると他の肉では物足りなくなる魅力があります。
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