トゲノコギリガザミ

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日本の汽水域に生息するカニの中で最大級の大きさと最強のハサミの力を持つトゲノコギリガザミ。かつては単に「ノコギリガザミ」や「マングローブガニ」と一括りにされていましたが、現在では3種類に分類され、その中でも本州(静岡県の浜名湖など)で「幻のカニ」として高値で取引されているのがこのトゲノコギリガザミです。浜名湖の「ドウマンガニ」や高知県の「エガニ」というブランド名で呼ばれるこのカニは、濃厚な味噌と栗のように甘い身を持ち、カニ好きからは「味はズワイやタラバ以上」と評されることもあります。泥の中に潜む緑色の巨体と、乾電池をも粉砕する強力なハサミ、そして分類の変遷によって少しややこしくなった名前の秘密について解説します。

項目内容
分類十脚目ワタリガニ科ノコギリガザミ属
標準和名トゲノコギリガザミ
漢字棘鋸蝤蛑
別名ドウマンガニ(浜名湖)、エガニ(高知)、マングローブガニ
学名Scylla paramamosain
英名Green mud crab
季節夏(オス)、冬(メス)
生息域房総半島以南の太平洋岸、内湾の汽水域
目次

トゲノコギリガザミとは

トゲノコギリガザミは、河口付近や内湾のマングローブ域、ヨシ原などの汽水域(海水と淡水が混ざる場所)に生息する大型のカニです。

泥の中に巣穴を掘って生活しているため、英名では「マッドクラブ(泥カニ)」と呼ばれます。

かつて日本には「ノコギリガザミ」という1種類しかいないとされていましたが、研究が進み、現在では以下の3種に分類されています。

  1. アミメノコギリガザミ(甲羅や脚に網目模様がある・最大種)
  2. トゲノコギリガザミ(網目模様がほとんどない・脚が緑色・本州で一般的)
  3. アカテノコギリガザミ(ハサミや脚が赤い・少し小型)

このうち、静岡県の浜名湖や高知県の浦戸湾などで漁獲され、高級食材として流通している「ドウマンガニ」や「エガニ」の正体の多くは、本種トゲノコギリガザミです。

沖縄県などで観光客向けにマングローブガニとして提供されるものは、より大型のアミメノコギリガザミであることが多いです。

トゲノコギリガザミの特徴

甲幅(甲羅の幅)は20センチメートル前後、重さは1キログラムから2キログラムに達します。

体色は全体的に深い緑色や暗い青緑色をしており、アミメノコギリガザミのような明瞭な網目模様はありません(脚の一部に薄く出ることはあります)。

最大の特徴は、名前の由来でもあるハサミ脚の腕節(手首の部分)や甲羅の縁にある鋭い棘(トゲ)です。

この棘が他のノコギリガザミ類よりも鋭く目立つことから「トゲ」の名が付けられました。

ハサミの力は凄まじく、乾電池や空き缶を簡単に潰してしまうほどの握力(1トン以上とも言われる)を持っています。

不用意に指を挟まれると切断される恐れがあるため、漁師や料理人は厳重にハサミを縛って扱います。

浜名湖の「ドウマンガニ」

静岡県の浜名湖で水揚げされるトゲノコギリガザミは「ドウマンガニ(胴満蟹)」と呼ばれ、地域ブランドとして確立されています。

その名の通り、胴体が丸々と満ちており、濃厚なカニ味噌と身が詰まっていることが特徴です。

漁獲量が非常に少なく、地元の料亭や高級旅館でしか味わえない「幻のカニ」とされています。

夏場は巨大なハサミを持つオスが人気で、爪肉の繊維一本一本が太く、食べ応えがあります。

冬場は内子(卵)を持ったメスが珍重され、その濃厚な味わいはチーズや栗に例えられます。

高知の「エガニ」

高知県では、トゲノコギリガザミのことを「エガニ(江蟹)」と呼びます。

これは「入り江(汽水域)」に住むカニという意味です。

高知では昔から「花見の季節にはエガニ」と言われるほど親しまれてきましたが、現在は高級化が進んでいます。

特に蒸しガニにした時の甘みは格別で、高知の酒飲みたちを唸らせる最高のご馳走です。

トゲノコギリガザミの料理

泥臭さは全くなく、非常に上品で強い甘みを持っています。殻が硬いため、調理の際はハンマーやペンチが必須です。

蒸しガニ

最もシンプルにして最高の食べ方です。

茹でるよりも蒸すことで、濃厚な旨味とカニ味噌が流れ出るのを防ぎます。

熱を加えると鮮やかな赤色に変わり、食欲をそそります。

身は弾力が強く、噛むほどに甘みが溢れ出します。

カニ汁・味噌汁

硬い殻や小さな脚からは濃厚な出汁が出ます。

半分に割って味噌汁にすると、カニの風味が汁全体に行き渡り、至福の味わいになります。

カニ味噌が溶け出したスープは濃厚なビスクのようです。

チリクラブ

東南アジアで人気のスパイス炒めです。

トゲノコギリガザミの淡白ながらも力強い身の味は、ピリ辛のソースに負けません。

殻ごと豪快に炒め、ソースをパンにつけて食べるのが本場のスタイルです。

まとめ

トゲノコギリガザミは、泥の中に潜む緑色の宝石です。「ドウマンガニ」や「エガニ」として、日本の食通たちを魅了し続けるその味は、ワタリガニ科の王様と呼ぶにふさわしいものです。アミメノコギリガザミのような派手な模様はありませんが、その深い緑色の甲羅の中には、極上の甘みと濃厚な味噌が詰まっています。もし浜名湖や高知を訪れる機会があれば、指を挟まれないように注意しながら、この幻のカニを味わってみてください。

トゲノコギリガザミに関するよくある質問

挟まれたらどうすればいいですか

絶対に無理に引っ張ってはいけません。

カニは引っ張られるとさらに強く挟む習性があります。

もし挟まれた場合は、カニが地面に着くようにして力を抜くか、どうしても離さない場合はハサミ自体を折る(最終手段)しかありません。

最良の対策は、生きているカニを触る際は必ずハサミが縛られていることを確認し、絶対にハサミの可動域に指を入れないことです。

アミメノコギリガザミとの見分け方は

最も分かりやすいのは「網目模様」の有無です。

アミメノコギリガザミは甲羅やハサミ、脚全体にはっきりとした網目模様があります。

トゲノコギリガザミは全体が緑色で、模様はほとんどありません(あっても脚の先などに薄くある程度)。

また、アカテノコギリガザミはハサミの先が赤く、体型が少し丸っこいのが特徴です。

自分で捕まえることはできますか

河口や汽水域でカニ網(カニ籠)を使って捕獲することができます。

餌には魚の切り身(サンマやアジなど)を使います。

ただし、漁業権が設定されている場所では一般人の捕獲は禁止されている場合が多いので、事前に必ず地元の漁協や自治体に確認してください。

また、夜行性なので夜釣りで狙うのが一般的ですが、足場が悪い場所も多いので安全対策が必要です。

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この記事を書いた人

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